最近はバスケットボールを見ることにハマっている。私の人生では2回目のバスケットボールブームだ。
1回目は4~5年前くらいに、ウォリアーズとキャブズが覇権を握っていた時代に熱心にNBAを見ていた。そしては今は茨城ロボッツを観に行くようになってBリーグを見るようになった。
今はバスケットボールの勉強を少しずつしている。まだ少し足を踏み出しただけだが、自分の知らなかった世界がそこに広がっているのを実感する。今回は、「バスケットボールの概念のサッカーへの応用」について、コラムを書いてみたい。
BasketballLab
参考にさせていただいた本として、東邦出版さんから出版された『BasketballLab』を拝見した。
非常に面白い本だった。
ターンオーバーという概念
バスケットボールには「ターンオーバー」という概念がある。
ラグビーにもアメフトにもターンオーバーという言葉があるが、私はこの言葉が気になる。サッカーでの「ターンオーバー」とバスケットボールでの「ターンオーバー」では、意味が違う。
バスケットボールの「ターンオーバー」はオフェンス側のミスや守備側チームのスティールによって攻撃が入れ替わることを指す。サッカーの場合は連戦の試合でメンバーを大きく入れ替える事を指す。
バスケットボールのターンオーバーはとても分かりやすい言葉だし、とても理解しやすい概念だ。
しかし、なぜサッカーでは攻守が入れ替わる「ターンオーバー」を使わないのか。
その答えは、両スポーツの相違点にポイントがありそうな気がしている。その相違点とは「バスケットボールは成功を前提」にしており、「サッカーは失敗を前提」にしているスポーツなのではないか、という事だ。
つまり、バスケットボールでは攻撃(シュート)へのチャレンジが出来る事を基本としており、それが叶わずに(シュートにトライする事すら出来ずに)トランジションが起きた場合を「失敗」とし、その現象をターンオーバーと呼ぶ。そんなイメージだ。
サッカーの場合は、ひとつの攻撃でシュートへのチャレンジすら出来ない事が多い。多くの攻撃は失敗が前提にあり、バスケットボールの意味合いで「ターンオーバー」を使うと、サッカーではあまりに多くの局面でターンオーバーが発生してしまう事になる。
コートが広い、ゲームに加わる人数が多い、手ではなく足で扱う、などの要素によってサッカーは「失敗の前提」をしておかなければゲームを上手く戦う事は出来ない。
しかし、近年のサッカーではパスの成功率を高めたスタイルも登場している。
グアルディオラの率いるマンチェスター・シティなどのスタイルにおいては、バスケットボールの「ターンオーバー」という概念を使うに相応しいのかもしれない。「アタッキングサードにボールを運ぶまでの過程」では成功を前提としており、そこに至るまでの過程でボールを奪われるならば、それはバスケットボールにおける「ターンオーバー」の意味合いと近い。
ターンオーバーを極力減らしたチームがアタッキングサードに侵攻でき、ゴールにアプローチする機会を得る。
そういった意味で、サッカー界でもバスケットボールと同じ意味合いの「ターンオーバー」を使う日も来るかもしれない。
FG%という概念
バスケットボールにはFG%(フィールドゴールパーセンテージ)という言葉も存在する。ボールライブの時にシュートが成功したパーセンテージを表す指標だ。
この指標の裏側を考えると、バスケットボールの競技への理解が進むかもしれない。
「バスケットボールは成功を前提」と先ほど書いたが、正確に言うならば「バスケットボールは成功の確率を100%に近づけようとするゲーム」と言った方がしっくりくるのかもしれない。
サッカーにもシュートの成功率を表す指標は存在するが、バスケットボールのFG%のように重要視されている印象は無い。なぜならば、サッカーでは攻撃の回数やシュートの機会が互いのチームに均等に(近い回数で)訪れるわけではなく、そこから勝敗への因果関係を語るのはやや無理があるからだ。
競技性の違いによって、指標の意味合いが変わってくるのは非常に面白い。
サッカーの場合は、シュートよりむしろパスの成功率に注目が集まる。チームのパス成功率と、攻撃をシュートに結びつける確率には多少なりとも因果関係があるのではないか?という考え方だろう。
ピックアンドロールはサッカーに応用出来るのか?
サッカーで活用できそうなバスケットボールのテクニックの1つにピックアンドロールがある。
ピックアンドロールの意味については、以下のサイトを参照いただきたい。
ピック&ロール(Pick and Roll)完全ガイド Vol.1
PnR(「スクリーンアンドロール」「オンボールスクリーン」、または「ボールスクリーン」とも呼ばれる)は、ボールマンと、ボールマンにスクリーンをセットするチームメイトから成ります。
1.ボールを持たないプレイヤーがボールマンにスクリーンをセットする
2.ボールマンはディフェンダーの動きを読み、ドリブルを仕掛けて、アタックするか自身またはチームメイトのシュートチャンスを伺う
3.スクリナーはゴール方向にロールして、ボールを受けてシュートの機会を伺う
すごく簡単に言うなら、スクリーンを利用することで2対2の局面から瞬間的に2対1を作ってシュートチャンスを伺うようなイメージだと思ってもらえれば良い。
このテクニックはバスケットボールで重要視されているが、サッカーでの応用はまだ進んでいない印象だ。
その理由は何故だろうか。
私が考えるに、距離感とスペースの問題が大きい。
バスケットボールの距離感、つまり味方や相手と2~3メートルの距離感でプレーする機会が、サッカーでは少ない。サッカーはバスケットより距離感が遠いために、スクリーンをかけに行く動きは不自然に見え、ファウルを取られる可能性も高い。
また、サッカーの場合はボールホルダー(ドリブラー)に近づいて相手DFにスクリーンをかけるよりも、他のスペースを狙ったり、相手DFを自分に引きつけておく方がボールホルダー(ドリブラー)にとってメリットが大きいという側面もある。
これらの要素によって、サッカーでピックアンドロールを採用するメリットは少ないのが現実かもしれない。
しかし、ロシアW杯でイングランド代表がセットプレーでスクリーンを応用した※1ように、「部分的な」スクリーンの活用や、局面を限定したピックアンドロールの活用という場面は今後も登場するかもしれない。
※1 footballista「イングランドのセットプレーに見る“戦術のバスケ化”の可能性」参照